あき家(空き家)とリノベ ときどきリフォーム

文学不動産

file02 Connect house引き繋ぐ家

September 20, 2019

施工 佐伯工務店

大きく強い家で暮らす
住む人が家に似てくる

昔の小説を好んで読む人がいるように、古い家を選んで住む人もいる。Yさん夫婦がそうだ。

この家に引っ越しする前は高松市のアパートに住んでいた。新婚当時は部屋に新しいものを揃えた事もあるが、どうもしっくり来ない。いつしかアンティークショップで古道具を少しずつ買い集め、祖父母の家にある年期の入った雑貨を譲ってもらって置くようになった。とりあえず、「好き」と感じるものに、ピカピカの現代モノがほとんどない。
「兵庫県に住んでいた学生時代、まわりに面白いビンテージショップがたくさんあって古着が好きになりました。その頃から徐々に、洋服も雑貨も古いものばかり買うようになったんです。1点モノで、現代の既製品にはない独特の

かっこよさがあるし、見た瞬間からピッタリだと感じて『これ、わたしの』と思えるものもある。巡り会いのタイミングも面白いですよ」とY家の妻は言う。
 子どもが生まれ住宅取得を考えた時も、最初はさすがに新しく自分たちのための家を建てようと思った。けれど夫婦で時間をかけて考えて達した結論は、「中古の家を買ってリノベーションしよう」。住む場所に関しても、時代を経たものの魅力を感じずにはいられなかった。
 「昭和レトロな家、もっと時代を遡った立派な農家、中古の家はたくさんありますが、不動産として流通しているものは意外に少なく、住みやすい物件はさらに少なくなります」と、この家をリノベーションした工務店の担当者は言う。「最近、古民家に住みたいという人は増えていますが、30歳前後の若いご夫婦は初めてです」。

広い庭と、縁側や土間があるこの家と、いいタイミングで出会えたのは〈古いモノ好き熱〉のなせる技かもしれない。
 古民家を住みやすくリノベするためには、住人が暮らし方に関して明確なビジョンを持っている事が重要になる。Yさん夫婦は「リビングダイニングを広く取って、家族が仲良く過ごせる空間に」と考えてフローリングにし、冬の寒さ対策として床暖房を入れた。その他の場所はあまり手をいれずそのまま住むことにした。

Yさん夫婦は、この家の佇まいが好きだと言う。「子どもを自由に走らせられること」、「家の細部をまじまじと見て、大工さんや建具職人さんの技に感動する瞬間があること」も気に入っている。

「家にキズがつく事に神経質になる事もない。それより柱の穴を見つけて〈昔住んでた人、どうしてここに穴を空けたんだろう〉と、面白がれる。虫が出る事も、子どもがちょっとしたケガをする事も平気になってきました」。

夫妻は、静かに時間が流れる大きく強い家に守られていると、そこに住む人も同じように育つのかもしれない、と感じている。
ー2019年8月取材

キッチンは家全体のなかでもっとも「洋」の雰囲気がある空間。プロ仕様の厨房を入れた。

玄関の土間スペースは、ギャラリーのように好きな古道具をディスプレーしている。

リビングの奥の座敷はほとんど手をいれていない。立派な木のタンスは前の住人から受け継いだもの。

畳の2部屋を繋げば、走っても走ってもまだ走れる屋内運動場のよう。

欄間は、「職人さんの手仕事に惚れ惚れするディテール」のひとつ。

  • 和室が多いので座布団を揃えている。
    なかなか面白いファブリック。

  • 前の住人から「結婚記念の大切なものだけれど、
    この家に合ってるから譲ります」と受け継いだ家具。
    「この<繋いでいく>感じの心地よさは、
    古民家に住む事でしか味わえないもの」と妻。

立派な梁と梁の間に板を渡して、祖父の家にあったかごなどを飾って。

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